FC2ブログ

低年齢児(乳幼児)の歯の外傷について

三月に入り、今年の厳しかった寒さからもやっと解放されつつありますね。
陽気が良くなると野外での活動が活発になりますが、その時に気をつけて頂きたいのはお子さんの外傷です。

 こどもの歯の外傷については、このブログでも度々取り上げてきましたが、今回は低年齢児(乳幼児)の歯の外傷について考えてみたいと思います。

 大阪歯科大学歯学部小児歯科学講座の研究によると、0歳から5歳までの乳幼児で比較した場合、1歳児の受傷が最も多く、次が2歳児で、3歳児以降では増齢とともに減少することが認められました。

 受傷場所については、一般的に幼児の外傷は屋外よりも屋内で起きやすいことが知られていますが、0~2歳児では家庭内での受傷が多いものの、5歳児では公園での受傷が多くなり、年齢によって変化することが認められ、年少児にとって家庭内が必ずしも安全な場所ではないことが示唆されています。

 更に受傷状況を細かく調べてみると、家庭内での受傷の多くは「家具」特に「テーブル」が関与しており、公園での受傷では「遊具」特に「すべり台」での外傷が多いことが明らかとなりました。また家庭内では上記の「家具」への転倒に次いで、階段からの転落も多いということがわかりました。これらの結果は、私自身のこれまでの臨床経験とも感覚的に一致するものです。

 小さなお子さんがいらっしゃるご家庭では、以上のことをご参考にして頂き、リビング等ではローテーブルの配置や角の形状に配慮し、ダイニングテーブルでは食事時に椅子から立ち上がったり不安定な姿勢にならないように注意して頂くことが重要です。
また公園などで遊ぶ際には、年齢に応じた滑り台の選択や正しい姿勢で滑ること、衣服が引っ掛からないよう注意をし、滑り台の下では保護者がしっかりとサポートしてあげるといったことも大切です。

 今回の研究では触れられていませんでしたが、私自身の臨床経験では同じお子さんが繰り返し外傷を起こしてしまうということも少なくないように感じています。

 私見ではありますが、重篤な外傷や事故予防の為には、多少の怪我や失敗を恐れずによく体を動かすことで、体力や筋力、平衡感覚などを養い、転倒してもさっと手を出せたり、受け身の姿勢を取れるといった身体能力の向上を図っていくこと、ひいては遊びや日々の生活の中から危険察知能力を高めていくといったことが一番重要なことであるのかもしれません。

参考引用論文
「乳歯外傷予防のための事故事例調査」
大阪歯科大学歯学部小児歯科学講座
小児歯科学雑誌 56(1):50‐55 2018 日本小児歯科学会


インフルエンザ予防と口腔ケアについて ~最近の研究結果から~

 今年は例年よりも早くインフルエンザの流行が始まり、尚且つ例年以上のインフルエンザの大流行が予想されています。我が家の子供達もやっと予防接種を受けられホッとしているところです。

 さて、過去の疫学調査などで、適切な口腔ケアの実施によりインフルエンザの発症が減少するという報告があり、院内新聞でもご紹介させて頂いたことがありましたが、その科学的根拠やメカニズムについては不明な部分が多くありました。例えば一つの要因として、口腔内細菌の出す酵素や毒素には粘膜組織を破壊し細菌やウイルスの体内への侵入を容易にさせてしまうものがあり、それにより感染が生じやすくなるのでは?と漠然と考えられていたりしていましたが、ここ数年の間に研究が進んだことにより多くの知見が得られ、インフルエンザと口腔ケアの関係性がはっきりとわかるようになってきましたのでご紹介させて頂きたいと思います。

 わが国では、毎年約1000万人がインフルエンザウイルスに感染し、そのうち乳幼児や高齢者を中心に約1万人が死亡すると言われています。身近ではありますが、決して侮ることができない感染症だということはご存知の通りです。
 そして、以前より、このインフルエンザウイルスは常在細菌が存在する口腔や鼻腔から感染することから、ウイルス、常在細菌、宿主(人間)の三者に密接な関係性があるのではないかと考えられてきました。

 通常インフルエンザウイルスが我々の体内に入ると、ノイラミニダーゼという酵素(NA)を産生し、その酵素の種々の働きにより我々の体の細胞内で増殖をしていきます。タミフルやリレンザ等のインフルエンザ治療薬はノイラミニダーゼ(NA)阻害薬であり、このノイラミニダーゼ(NA)を阻害することで体内でのインフルエンザウイルスの増殖を抑えるというメカニズムを持っています。つまり、インフルエンザウイルスが我々の体内で増殖し発症するためには、ノイラミニダーゼ(NA)という酵素の存在がとても重要になるのです。

 ところが最近の研究により、口腔や鼻腔に存在する常在菌の中にはこのノイラミニダーゼ(NA)と同じ働きをするタンパク質を産生する細菌が多数いることがわかってきました。つまり口腔内の細菌がインフルエンザウイルスの感染、発症そのものを手助けしてしまうということになります。更に、この口腔内細菌由来のノイラミニダーゼ(NA)の中には、抗インフルエンザウイルスによるノイラミニダーゼ阻害作用を受けないものがあり、その結果、タミフルやリレンザ等のインフルエンザ治療薬が効きにくくなるということもわかりました。
 また、唾液の中にはインフルエンザウイルスの感染性を抑制する物質が存在するものの、細菌やウイルス由来のノイラミニダーゼ(NA)によりその抑制効果が阻害されてしまうこともわかってきました。

 これらの結果から、しっかりとした口腔ケアを行い口腔内の衛生状態を保ち、口腔内の細菌の減少を図ることで、インフルエンザウイルスによる感染やインフルエンザの発症をしにくくさせることができ、また発症した後インフルエンザ治療薬を使用する際にも治療薬の効果を発揮させることができるということがわかります。
 最初にも書きましたように、インフルエンザは乳幼児やご高齢の方、持病をお持ちの方などで重篤化しやすいので注意が必要です。

 年末年始は、買物や帰省・旅行などで人の移動が激しくなり、インフルエンザも蔓延しやすくなります。休息や栄養を充分に摂り、予防ワクチンの接種や手洗いうがい、室内や口腔内の乾燥防止などの基本的予防に加えて、適切な口腔ケアを行って頂き、インフルエンザ予防の一助にして頂ければと思います。


[口腔ケア」という言葉をご存知でしょうか? ~最近の研究から~ その3

 私たち自身が日々行っている口腔ケアの主な目的の一つにバイオフィルム(プラーク)除去というものがあります。
では、このバイオフィルム(プラーク、歯垢、昔は「歯くそ」とも言われました。)というものは一体何物なのでしょうか?

みなさまは、歯の表面に膜状にこびりついたバイオフィルムを見かけたことがあると思います。これをただの食べかすだと思っている方も多くいらっしゃいますが、実はこのバイオフィルムは食べかす等ではなく、生きた細菌そのものなのです。

ではこの細菌達は、いったい我々にどのような影響を及ぼすのでしょうか?

そもそも私たちの口の中には、口腔常在菌という300~700種類位の細菌が生息しており、その数はなんと唾液1ml中に100万~1億個、バイオフィルム1mg中には1000億個もの細菌が生息しています。これは糞便1mg中の細菌数とほぼ同じ数になります。
お口の中全体で考えると、菌が少ない方でも1000億~2000億個、菌の多い方では1兆を超える数の細菌が生息しています。
そしてこれらの菌の巣こそがバイオフィルムなのです。
更には、時間の経過と共に、このバイオフィルムを構成する細菌がたちの悪い種類の細菌に変化していくという特徴があります。
ですので、バイオフィルムを悪い菌主体のものへと変化させないうちに早めに除去しておく必要があるのです。

最近の研究では、これらのバイオフィルムが歯周病やむし歯などの口の中のトラブルだけではなく、強力な発ガン物質の生成や、血管内皮の障害などによる糖尿病の悪化や老化の促進、粘膜免疫機能への影響や、誤嚥性肺炎の原因など多くの病気や健康阻害の要因になることがわかってきています。

このように、口腔ケアは私たちの健康な生活を維持したり、病気の治癒や悪化を防いでくれる効果があります。
是非、みなさまお一人お一人に合った正しい口腔ケアの方法を知って頂き、日々実践して頂ければと思います。

これまでお話させて頂いた内容につきまして、もっと詳しくお知りになりたかったり、何かご質問等がございましたら遠慮なくお尋ね頂きたいと思います。



「口腔ケア」という言葉をご存知でしょうか? ~最近の研究から~ その2

前回のブログでは、最近の知見により、「口腔ケア」について新しい研究データが多数発表されてきており、厚生労働省もそれに着目し、医療制度に取り入れる動きも出てきているというお話をさせて頂きました。

その一例として、「周術期口腔ケア(周術期口腔機能管理)」というものがあります。
これは、病気で入院・手術を行う際に、その前後(周術期)に歯科医師や歯科衛生士による専門的口腔ケアを行う事で、合併症の予防や入院日数の短縮が期待できるという研究データに基づいた考え方です。

以下の資料は、平成26年の厚生労働省社会保障審議会における資料から抜粋したものですが、千葉大学医学部附属病院での研究結果では歯科医師や歯科衛生士による計画的周術期口腔ケアを実施した患者さんでは、看護師などによる一般的口腔ケアのみを行った患者さんよりも、合併症の発生が少なく、退院までの日数も少なくなるという驚くべき結果が出ています。


↓クリックすると別ウィンドウで開きます。 (平成26年の厚生労働省社会保障審議会における資料から抜粋)

 1.まるいち  2.まるに

 3.まるさん  4.まるよん

 5.まるご ※6.まるろく

※7.まるなな ※8.まるはち

↑※6.注釈 
口腔内は、もともと術後感染のリスクが高い場所なので、口腔機能管理により感染リスクの減少、ひいては抗菌薬の投与期間の短縮につながると考えられます。

↑※7.注釈
 CRP値とは、血中のC反応性タンパクの値のことで、体に感染や炎症があると高値になります。口腔機能管理群でCRP値が低いことがわかります。

↑※8.注釈 
COPDとは慢性閉塞性肺疾患のことです。COPDの方は炎症性呼吸器症状を起こしやすいのですが、感染によって急性増悪が生じることがあるので、適切な口腔機能管理がより重要になります。

いかがでしたでしょうか?

一般に、全身麻酔下で手術を受ける場合、通常は口から気管にチューブを入れる気管内挿管を行います。
その際、口の中の衛生状態が悪ければ、チューブを通して口の中の細菌が気管や肺に入ってしまいやすくなります。また歯周病により揺れてしまっている歯が抜けてしまったり、むし歯で脆くなっている歯が折れてしまうおそれもあります。
手術後に、お口の中の状態が悪くて食事の経口摂取がしにくければ、回復を遅らせてしまうかもしれません。
また、悪性腫瘍の治療で抗がん剤などの化学療法や放射線治療を受けられる場合には、副作用として口内炎が発生しやすくなる場合があります。
適切な口腔ケアを行うことにより口内炎の発生頻度を低下させることができますし、口腔内の衛生状態が悪い状態で口内炎が発生すると、痛みにより口腔内清掃がしにくくなり、更に口腔衛生状態を悪化させる原因となります。

以上の事からも、特に手術の前後での「周術期口腔ケア(周術期口腔機能管理)」がいかに重要であるかがおわかり頂けるかと思います。
もし入院や手術の予定がある方やそのご家族の方で、口腔ケアやお口の状態に不安がおありであれば、是非ご相談頂ければと思います。

今回のブログでは、特に入院や手術時の「周術期口腔ケア(周術期口腔機能管理)」についてお話をさせて頂きましたが、口腔ケアは日常生活の中でも非常に重要な役割を持っています。
次回のブログでは、そのあたりのお話をさせて頂きたいと思います。

当院では、なるべく医学的根拠に基づいた正しい情報の発信に努めていきたいと考えております。
ご質問等がございましたら、ご遠慮なくお聞き頂ければと思います。

「口腔ケア」という言葉をご存知でしょうか?  ~最近の研究から~ その1

「口腔ケア」という言葉をご存知でしょうか?

「どこかで聞いたことがあるような、ないような・・・。」
多くの方にとっては、普段あまり馴染みのない言葉であるかもしれません。
しかし最近では、この「口腔ケア」の重要性が非常に注目されてきていますので、当ブログでもご紹介させて頂きたいと思います。

まず「口腔ケア」という言葉を厚生労働省の情報提供サイトで検索すると、
•狭義:口腔疾患および気道感染・肺炎に対する予防を目的とする口腔清掃や口腔保健指導を中心とするケア
•広義:口腔疾患および機能障害に対する予防、治療、リハビリテ-ションを目的とする歯科治療から機能訓練までを含むケア
と定義されています。

日頃、皆さまが行われている、歯を磨きデンタルフロスや歯間ブラシを用いて行う口腔清掃や、舌や歯ぐきを良く動かしてマッサージを行ったり、口の周りの筋肉をストレッチするようなセルフケアも「口腔ケア」ですし、歯科医師や歯科衛生士による専門的な歯石除去やあらゆる歯科治療、保健指導等のプロフェッショナルケアも「口腔ケア」であります。

つまり、「口腔ケア」とは何か特別な事ではなく、歯やお口に関するお手入れや予防処置、治療処置、リハビリテーション処置すべてを指す言葉であると言えます。

では、私たちは何を目的として口腔ケアを行っているのでしょうか?
一般的には、口腔ケアは「むし歯や歯周病の進行を予防する為」に行っていると考えていらっしゃる方が多いことかと思います。

勿論、むし歯や歯周病の進行を予防することは非常に大切でありますが、私は、あくまでそれは目的というよりも手段であり、本来の目的は「人生を過ごしていく上で、なるべく健康で快適な生活をおくっていくこと。」にあるのではないかと考えます。
ですので、ただお題目のように「むし歯や歯周病の進行を予防しましょう!」「口腔ケアをしましょう!」と唱えるだけでは、本質からずれてしまうような気が致します。

最近の知見では、口腔ケアについて新しい研究データが多数発表されてきており、厚生労働省もそれに着目し、医療施策に取り入れる動きも出てきています。
次回のブログでは、それについてもう少し詳しくお話をさせて頂きたいと思います。