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歯科医師の立場から考えた新型コロナウイルス感染予防について

現在世界的に新型コロナウイルスによる肺炎の流行が懸念されており、一刻も早いウイルスの性質の詳しい分析が待たれるところですが、一般的にコロナウイルスは、インフルエンザウイルスやアデノウイルスと同じく口腔、咽頭、気道などの粘膜から我々の体の中に侵入します。

インフルエンザウイルスに関しましては、以前に当ブログでも「インフルエンザ予防と口腔ケアについて~最近の研究結果から~」http://yokokaruinchou.blog134.fc2.com/blog-date-201711.htmlというタイトルの記事でインフルエンザウイルスが我々の体内に侵入するメカニズムと口腔ケアの関係性についてのご説明をさせて頂きましたが、まだまだ実態がわからない新型コロナウイルスに対しましても、いかに私たちの体内即ち粘膜に侵入させないかということが現在できる最大の予防になるのではないかと思います。

そして今回のブログでは、そのことを踏まえて歯科医師の立場からお話をさせて頂きたいと思います。

最初にもお話したように、一般的にコロナウイルスは、インフルエンザウイルスやアデノウイルスと同じく口腔、咽頭、気道などの粘膜から我々の体の中に侵入します。しかしこれらの粘膜は、通常はムチン等といった粘液性(ねばねばした)の糖タンパク質に覆われ、それがバリア機能を持って細菌やウイルスの侵入を防いでくれています。
ところが、糖タンパク質の産生能が低下したり、粘膜が乾燥してしまったりして糖タンパク質のバリア機能が落ちてしまうと、細菌やウイルスが容易に粘膜に侵入し、その後の感染へとつながってしまいます。

そして、この糖タンパク質は、口腔内では唾液に多く含まれているため、加齢や病気などで唾液の分泌が低下したり、口呼吸などで口の中が乾燥してしまうことで粘膜のバリア機能が低下してしまうのです。
更に、むしば菌や歯周病菌などの口腔内細菌には、この大切な糖タンパク質を破壊する酵素を産生してしまうものがいることもわかっています。

以上のことから、歯科医師の立場から考えた粘膜へのウイルスの侵入を防ぐ対策としては、

①、口呼吸などで口が乾かないようにマスクをしたり、水分をこまめに口に含むなどして口腔乾燥に十分に注意をし、唾液腺や口腔周囲機能を活性化させ唾液の分泌を促すよう心掛ける。

②、加齢や病気、薬剤の使用などで慢性的な口腔乾燥状態にある方は、口腔湿潤剤などを活用する。

③、適切な歯磨きやフロッシング、歯石除去などの口腔ケアにより、粘膜保護機能を高める。

以上のような事柄も是非知って頂き、感染予防の一助として頂ければと思います。


日本医科大学付属病院千駄木懇親会に参加しました。

 先日、文京区関口の椿山荘東京にて開催されました、
日本医科大学付属病院千駄木懇親会にご招待を頂き、参加をしてまいりました。

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 会に先立ち、「平成のがん診療変遷:日本医科大学付属病院の取り組み」や「日本医科大学附属病院の医療連携と東京総合医療ネットワークについて」という題目での特別講演を拝聴させて頂き、大変貴重な知見をご教示頂きましたが、「付属病院 新規医療技術の紹介に関する報告」というご講演では特に、

1、「食道アカラシアに対するPOEM(内視鏡下筋層切開術)」
2、「内視鏡下唾石摘出術」

といった、歯科医療にも関連する非常に興味深いお話を伺うことができました。

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 この食道アカラシアという病気は、食道下部の筋肉が上手く緩んでくれず、食物が胃に入りにくく食道に滞留してしまう病気です。
一見歯科とは関係がないようでありますが、「物が食べにくい。」「飲み込みにくい。」といった症状として感じる方もいらっしゃり、当院のように摂食嚥下障害診療に注力している歯科医院に来院される方もいらっしゃいます。

 実際に、当院においてもこのような症状で受診された方がいらっしゃり、日頃より当院と医療連携を行っております東京医科歯科大学歯学部附属病院摂食嚥下外来にVF検査(嚥下造影検査)を依頼した結果、食道アカラシアが疑われるという症例がありました。

 DSC_0451-2-2.jpg (配布資料より転載)

 このような食道アカラシアに対しまして、今後日本医科大学付属病院では内視鏡を用いた最新の手術を行って頂けるとのことですので、この病気で苦しまれている患者さまにとっては福音となると言えるのではないでしょうか?

 次に唾石症についてですが、まず唾石とは何かというと、顎下腺や耳下腺といった唾液腺やその導管部(唾液腺でつくられた唾液が唾液腺開口部から口腔内に分泌されるまでの管)にできてしまった結石のことで、その唾石がつまってしまったものが唾石症です。
典型的な症状として、唾仙痛という食事時の口腔内の痛みを感じることがあるため、歯科を受診される方がいらっしゃいます。
 
 私が歯科大学の学生だった頃には、講義や臨床実習で、唾石症と言えば切除あるいは顎下腺の摘出と習ったものですが、日本医科大学付属病院では、症例によって内視鏡下での摘出が可能であるとのことですので、この治療法が適用できれば非常に侵襲が少なく患者さまのメリットが大きくなるものと考えられます。

 DSC_0445-2-2.jpg (配布資料より転載)

 以上お話しをさせて頂きましたように、お口のまわりに症状が出現した場合でも、実際には医科的なアプローチが必要になる場合は多々あります。そのような患者さまに対しましては、的確かつ迅速な専門病院などの高次医療機関へのご紹介が肝要となります。
 幸い、東京中心部、特に文京区周辺は、医科大学病院、、高次機能病院、歯科大学病院等の専門的医療機関が豊富であり、医療資源に非常に恵まれていると言えます。
 
 当院では、2009年の開院以来、日頃よりこれらの複数の専門的医療機関と密接に連携を行うことにより、患者さまの安心安全につながる地域医療に努めておりますので、お口や顎、飲み込み機能などにちょっとしたご不安を感じられた際には、ぜひお気軽にご相談下さい。




低年齢児(乳幼児)の歯の外傷について

三月に入り、今年の厳しかった寒さからもやっと解放されつつありますね。
陽気が良くなると野外での活動が活発になりますが、その時に気をつけて頂きたいのはお子さんの外傷です。

 こどもの歯の外傷については、このブログでも度々取り上げてきましたが、今回は低年齢児(乳幼児)の歯の外傷について考えてみたいと思います。

 大阪歯科大学歯学部小児歯科学講座の研究によると、0歳から5歳までの乳幼児で比較した場合、1歳児の受傷が最も多く、次が2歳児で、3歳児以降では増齢とともに減少することが認められました。

 受傷場所については、一般的に幼児の外傷は屋外よりも屋内で起きやすいことが知られていますが、0~2歳児では家庭内での受傷が多いものの、5歳児では公園での受傷が多くなり、年齢によって変化することが認められ、年少児にとって家庭内が必ずしも安全な場所ではないことが示唆されています。

 更に受傷状況を細かく調べてみると、家庭内での受傷の多くは「家具」特に「テーブル」が関与しており、公園での受傷では「遊具」特に「すべり台」での外傷が多いことが明らかとなりました。また家庭内では上記の「家具」への転倒に次いで、階段からの転落も多いということがわかりました。これらの結果は、私自身のこれまでの臨床経験とも感覚的に一致するものです。

 小さなお子さんがいらっしゃるご家庭では、以上のことをご参考にして頂き、リビング等ではローテーブルの配置や角の形状に配慮し、ダイニングテーブルでは食事時に椅子から立ち上がったり不安定な姿勢にならないように注意して頂くことが重要です。
また公園などで遊ぶ際には、年齢に応じた滑り台の選択や正しい姿勢で滑ること、衣服が引っ掛からないよう注意をし、滑り台の下では保護者がしっかりとサポートしてあげるといったことも大切です。

 今回の研究では触れられていませんでしたが、私自身の臨床経験では同じお子さんが繰り返し外傷を起こしてしまうということも少なくないように感じています。

 私見ではありますが、重篤な外傷や事故予防の為には、多少の怪我や失敗を恐れずによく体を動かすことで、体力や筋力、平衡感覚などを養い、転倒してもさっと手を出せたり、受け身の姿勢を取れるといった身体能力の向上を図っていくこと、ひいては遊びや日々の生活の中から危険察知能力を高めていくといったことが一番重要なことであるのかもしれません。

参考引用論文
「乳歯外傷予防のための事故事例調査」
大阪歯科大学歯学部小児歯科学講座
小児歯科学雑誌 56(1):50‐55 2018 日本小児歯科学会


インフルエンザ予防と口腔ケアについて ~最近の研究結果から~

 今年は例年よりも早くインフルエンザの流行が始まり、尚且つ例年以上のインフルエンザの大流行が予想されています。我が家の子供達もやっと予防接種を受けられホッとしているところです。

 さて、過去の疫学調査などで、適切な口腔ケアの実施によりインフルエンザの発症が減少するという報告があり、院内新聞でもご紹介させて頂いたことがありましたが、その科学的根拠やメカニズムについては不明な部分が多くありました。例えば一つの要因として、口腔内細菌の出す酵素や毒素には粘膜組織を破壊し細菌やウイルスの体内への侵入を容易にさせてしまうものがあり、それにより感染が生じやすくなるのでは?と漠然と考えられていたりしていましたが、ここ数年の間に研究が進んだことにより多くの知見が得られ、インフルエンザと口腔ケアの関係性がはっきりとわかるようになってきましたのでご紹介させて頂きたいと思います。

 わが国では、毎年約1000万人がインフルエンザウイルスに感染し、そのうち乳幼児や高齢者を中心に約1万人が死亡すると言われています。身近ではありますが、決して侮ることができない感染症だということはご存知の通りです。
 そして、以前より、このインフルエンザウイルスは常在細菌が存在する口腔や鼻腔から感染することから、ウイルス、常在細菌、宿主(人間)の三者に密接な関係性があるのではないかと考えられてきました。

 通常インフルエンザウイルスが我々の体内に入ると、ノイラミニダーゼという酵素(NA)を産生し、その酵素の種々の働きにより我々の体の細胞内で増殖をしていきます。タミフルやリレンザ等のインフルエンザ治療薬はノイラミニダーゼ(NA)阻害薬であり、このノイラミニダーゼ(NA)を阻害することで体内でのインフルエンザウイルスの増殖を抑えるというメカニズムを持っています。つまり、インフルエンザウイルスが我々の体内で増殖し発症するためには、ノイラミニダーゼ(NA)という酵素の存在がとても重要になるのです。

 ところが最近の研究により、口腔や鼻腔に存在する常在菌の中にはこのノイラミニダーゼ(NA)と同じ働きをするタンパク質を産生する細菌が多数いることがわかってきました。つまり口腔内の細菌がインフルエンザウイルスの感染、発症そのものを手助けしてしまうということになります。更に、この口腔内細菌由来のノイラミニダーゼ(NA)の中には、抗インフルエンザウイルスによるノイラミニダーゼ阻害作用を受けないものがあり、その結果、タミフルやリレンザ等のインフルエンザ治療薬が効きにくくなるということもわかりました。
 また、唾液の中にはインフルエンザウイルスの感染性を抑制する物質が存在するものの、細菌やウイルス由来のノイラミニダーゼ(NA)によりその抑制効果が阻害されてしまうこともわかってきました。

 これらの結果から、しっかりとした口腔ケアを行い口腔内の衛生状態を保ち、口腔内の細菌の減少を図ることで、インフルエンザウイルスによる感染やインフルエンザの発症をしにくくさせることができ、また発症した後インフルエンザ治療薬を使用する際にも治療薬の効果を発揮させることができるということがわかります。
 最初にも書きましたように、インフルエンザは乳幼児やご高齢の方、持病をお持ちの方などで重篤化しやすいので注意が必要です。

 年末年始は、買物や帰省・旅行などで人の移動が激しくなり、インフルエンザも蔓延しやすくなります。休息や栄養を充分に摂り、予防ワクチンの接種や手洗いうがい、室内や口腔内の乾燥防止などの基本的予防に加えて、適切な口腔ケアを行って頂き、インフルエンザ予防の一助にして頂ければと思います。


[口腔ケア」という言葉をご存知でしょうか? ~最近の研究から~ その3

 私たち自身が日々行っている口腔ケアの主な目的の一つにバイオフィルム(プラーク)除去というものがあります。
では、このバイオフィルム(プラーク、歯垢、昔は「歯くそ」とも言われました。)というものは一体何物なのでしょうか?

みなさまは、歯の表面に膜状にこびりついたバイオフィルムを見かけたことがあると思います。これをただの食べかすだと思っている方も多くいらっしゃいますが、実はこのバイオフィルムは食べかす等ではなく、生きた細菌そのものなのです。

ではこの細菌達は、いったい我々にどのような影響を及ぼすのでしょうか?

そもそも私たちの口の中には、口腔常在菌という300~700種類位の細菌が生息しており、その数はなんと唾液1ml中に100万~1億個、バイオフィルム1mg中には1000億個もの細菌が生息しています。これは糞便1mg中の細菌数とほぼ同じ数になります。
お口の中全体で考えると、菌が少ない方でも1000億~2000億個、菌の多い方では1兆を超える数の細菌が生息しています。
そしてこれらの菌の巣こそがバイオフィルムなのです。
更には、時間の経過と共に、このバイオフィルムを構成する細菌がたちの悪い種類の細菌に変化していくという特徴があります。
ですので、バイオフィルムを悪い菌主体のものへと変化させないうちに早めに除去しておく必要があるのです。

最近の研究では、これらのバイオフィルムが歯周病やむし歯などの口の中のトラブルだけではなく、強力な発ガン物質の生成や、血管内皮の障害などによる糖尿病の悪化や老化の促進、粘膜免疫機能への影響や、誤嚥性肺炎の原因など多くの病気や健康阻害の要因になることがわかってきています。

このように、口腔ケアは私たちの健康な生活を維持したり、病気の治癒や悪化を防いでくれる効果があります。
是非、みなさまお一人お一人に合った正しい口腔ケアの方法を知って頂き、日々実践して頂ければと思います。

これまでお話させて頂いた内容につきまして、もっと詳しくお知りになりたかったり、何かご質問等がございましたら遠慮なくお尋ね頂きたいと思います。